きゅうりは痛いのがいいんだって。
でも、そういうきゅうりはスーパーには売っていないみたい。さわると痛いって、すげぇ電じビームとか出すのかな。電気ナマズが350ボルトで電気ウナギが800ボルトだから、電気きゅうりはおまけして120ボルトくらいかな。でもボルトって、電気のいりょくのことかと思ったけど違うみたい。透兄の説明は長くてむずかしくてわかんないわ、とお母さんが言ったら透兄怒ってとちゅうでやめちゃったんだ。男のあつかいはむずかしいんだぜ。今度またきこう。
電気きゅうりはうそだけど、痛いきゅうりはお母さんが言ったからほんと。痛いきゅうりがないと今日のオレのにんむはかんせいしないんだ。ピンチ。
「痛いきゅうりはありませんか?」
シーズーみたいにかみの毛をしばったレジのおばさんは、びっくりしたみたいに「痛いきゅうり?」と言った。
「ああ、最近はなかなかないわよねぇ」
オレの後ろにいたおばさんがお父さんみたいな声でわらった。
「すげーおばさん、知ってるの?」
「もちろんよ、おばさんち農家だったのよ」
おばさんのカゴにはおさけとコロッケと手まきずしとおかしがいっぱい入ってた。いいなコロッケ。一番おいしい食べかたは、レンジでチンしてぺったんこにしてソースいっぱいかけるんだ。透兄に教えてもらった。お母さんは「食べ物で遊ぶなら食べなくていいの!」って怒るから、お母さんが留守の時のひみつ。お父さんは3つも食べた。
「お兄ちゃんえらいねぇ、おつかい?」
「うん、オレ今日サラダ作っておつけもの切るんだ。おみそしるも作れるけど今日はパス」
「あらぁすごいわね」
「痛いきゅうりってどんなの?」
「知らずに探してたの?」
おばさんはすごいおっきい声でまたわらった。
「そいでね、そのおばさんちにはさくらとユズとシュウゾウがいるんだって。さくらがポメラニアンでユズとシュウゾウがミニチュアダックスで、ユズがおかあさん。今度遊びに行ってもいいって!」
きゅうりはふくろから出して洗って、まないたの上でおしおでごしごしやるんだ。緑色のしるが出てくる。かわがけずれてるのかな。
尚兄がぎじゅつかで作った台にのると、ちょうどいい高さになる。おっこちないのがたつじんのわざです。去年はもっと小さかったからジャンプを一冊のせてもまだちょっとダメで、背のびしてよくおっこちた。ジャンプのひょうしはすべるんだ。
「あんたお店の人に迷惑かけなかったの?」
「まっかせなさい」
ほんとは、痛いきゅうりがあるか全部さわってみた時、タマネギのところにいたおじさんが「どれも同じだよ!」って怒ったみたいに言ったけど、オレはつぶしたりたたいたりしてないよ、しらべてたんだもんね。それに全部同じってちがうよ、はしっこに何か黄色いのがついてたのが3つあった。コロッケのおばさんに聞いたら、あれは花のあとだって。きゅうりに花がさくんじゃなくて、花がさいた後にきゅうりができるんだ。スバラシイ。
「そのおばさんちはどこなの?」
「ライオンマンション。タケちゃんちと同じ階」
「あら、ご近所なの。それならお母さん知っているかもしれないわ」
はしっこのところをちょっと切って、それでこすると白いのが出てくる。これはよごれなのかな。なめたらまずいかな。
「この白いの何?」
「何かしらね」
「何でこうやんの?」
「おまじないみたいなものかしらねぇ」
左がわのおなべのふたがぶわっと上がって、中から白いあわがいっぱい出てきた。お母さんダッシュ。あ、右がわも音がする。お母さんピンチ。
「母さん、電話なってるよ」
「オレ出てあげる!」
「衛、包丁持ってる時はダメ! 透、あんた出なさい!」
「今ボス戦だから無理」
「電源ひっこぬくわよ!」
お母さん2000ボルトのいりょく。
おまじないをしたきゅうりはおいしかった。
「というわけで料理は愛情なんだよ
「俺の愛情こめた握り飯食いたいのか貴様」
「いんや、1コ320円で売る」
炊きたてゴハンでおにぎりを握るのは、実は結構難易度が高い。炊きたての表面温度は80度くらいかな。グローブみたいな掌した野球部の滝川も悲鳴上げていた。主婦の掌はスゴイいやホント。
「マモちゃん、その20円という半端な数字はどこから出てくるわけ?」
「消費税値上げの噂に便乗してみようかと」
「でもよー、体験実習一日したくらいで料理出来るようになるとは俺には思えねぇんだけど、しかもおにぎりだぜ?」
「いいからキミタチさっさと握りなさい。見ろよオレの華麗な技」
「……お前、妙なところで糠味噌臭い」
粟飯原、さすが超文系。その表現も結構レトロだ。
END.
※任務は「かんせい」ではなくて「かんすい」です。念の為。
高校生マモルのレパートリーはカレーや焼き魚まで。母の手抜きディに駆り出されています。
『ドリトル先生』シリーズのガブガブが語る「魔法のキュウリ」のネタを入れたかったのですが、マモルは読書家ではないので断念。
「料理の出来るオトコに育てるのが理想」と弟の嫁さんが小2の息子に頑張って教えています。日本の未来は案外明るい。