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子供の季節

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 草木も眠る五月晴れ。
 外に出たらすっげー天気良かったから、カッコ良くそう言ったのに透兄は耳と鼻と口から牛乳ふいた。ホントにふいたわけじゃないけどそんな音した。やれるようになったらビデオに撮って『びっくりVTR』に送って賞金10万円もらうのに。でも耳ってこまくあるんだよな、こまくは牛乳通すのかな?
「お前朝っぱらからテンション高ぇよ」
 透兄は行ってきますも言わずに行っちゃった。お行儀悪い。
「おー、快晴だな」
 お父さんがおなかをさすりながら出てきた。カンロクがついたってお母さんは言う。しぼうにはいろんな呼び方があるんだ。コレステロールとか忠誠しぼうとか。(忠誠は透兄がゲームで頑張って上げてたから知ってる。でももしかしたら違うかも。しぼうと関係ないっぽいもん)。この前電車に乗っててにんぷさんに席譲ってあげたら、後でお母さんがこっそりと、あの人はにんぷさんじゃなかったのよ、もういいけどね、と言った。あのお腹はカンロクがついていたみたい。それで、カンロクがついている人に席譲るのは失礼なんだって。座りたいなあって顔してたからいいと思うんだけど駄目なの?
「お父さん今日も太っ腹だね」
「うーん、最近運動不足だからなぁ……マモルも早くしないと遅刻するぞ」
「はっはっは、光速で行くから心配ご無用」
 お父さんはお母さんが玄関に置いたゴミの袋を右手で持って、左手でオレのアタマをわしわし撫でた。たばこくさい。
「音速と光速ってどっちが早いか知ってるか?」
「光速! 音速ってマッハ1なんだよ、時速1200km。光速は秒速30万km! ぶっちぎりで光速の勝ち、イェーイ。えーとだから光速は時速……」
「今の小学校はそんなこと教えるのか?」
「えーとね、賀屋埜先生が教えてくれたのは雷のピカッとゴロゴロでピカッの方が早いから光速の勝ち」
 わしわしわしわし。
「でもそれだとピカッとゴロゴロってすぐ近くに落ちるとほとんど同時だからよけいわかんなくない? えーと3×36に0が3つでー」
「108000。甘いな衛、秒速30万kmは真空状態での速さだ。空気中では少し遅くなるぞ。音速も条件によって──」
「尚、これ以上衛を頭でっかちにするつもりか?」
 尚兄が二つ折りにしたパンを口から外すと、キリトリ線があったみたいに歯の形になっていた。いいなあ、オレ二つ折りじゃ口に入んない。サンドイッチ用のパンなら出来るんだけど。
「オレ頭でっかくないよ。みどり公園のフェンスの穴あいたとこくぐれるのオレだけだもん」
「そりゃちびってことだろ」
 尚兄、飲み物なくてのどつまりしたらどうするんだろ。あ、パンに目玉焼きはさんである。ラピュタのパズーだ。オレも明日やろう、ラピュタは本当にあったんだ。
「尚兄知らないの? 頭と片手が入ればどこだってくぐれるんだよ。オレ発見オレのほうそく」
 でもうちのクラスで一番でかい丸ちゃんはカンロクあるから駄目かもしんない。オレにとってはほうそくでも丸ちゃんには違うんだ。残念賞。
「猫かお前は。あのフェンスの向こうって確か崖になってなかったか?」
「崖じゃないよ。でっかい木が下に二本あって枝がこうなってて降りられんの。でもりっくん自分がくぐれないからってオレがそっち行くと先生に言いつけんだよ、だからりっくんいる時は行かない」
「あの金網俺の小さい時からあのままだぞ、錆びててヤバくねーの?」
「大丈夫でーす。カンペキ」
「まあ、男の子は少しくらい危ないことしないとなぁ……今の子はケンカの仕方も知らないし、ゆとり教育は何の問題解決にも……」
 お父さん、難しいこと言うとカッコいいけどゴミの袋持ったままだとイマイチ。
「危なくないよ。フェンスの端っこをこう持ってくぐるとひっかかんないんだ。そこ川までの近道で小さい川あって、ザリガニいるんだよ。ザリガニって汚い水のとこしかいないんだ」
「それでお前毎日ドロドロになって帰って来るのか……」
「ま、お父さんはちょっと安心したよ」
 わしわしわし。
「何が?」
「何やってんの? あんた達。こんな時間じゃないの。あら、お父さんまで!」
 うひぇーっと尚兄とお父さんが同時に腕時計を見て、門を開けっ放しにして行っちゃった。行ってらっしゃーい。
「お父さんゴミ忘れてる」
「もう、駄目ねぇ……ほら、衛も早くしなさい。今日ソロバン要るんじゃなかったの?」
「おお、そうだった」
 靴を脱ごうとしたら、もーもー言いながらお母さんはダッシュで取りに行ってくれた。いつもすまんのぅ。いーち、にーぃ。
「すげー! 28! お母さん28.0秒、日本記録タイです」
「早く行きなさい!」


「……お前、小さい頃からその性格だったんだな」
 顰めっ面でノートを睨みながら、友人はぼそりと言った。どの性格よ。
「や、あの頃は我ながらスゴかった。ザリガニ食ってみたしね」
「食えるのか? あれ」
「いやー殻硬いし泥臭くて。その後腹くだして病院行った。でも外国で確かザリガニ食うとこなかったっけ」
 生かよ、と友人は溜息をついている。ザリガニってどう焼くんだ? レンジでチンはヤバいだろ。
「まーとにかく。ほれ次。音の振動数f0=3×(340+V)で答えは秒速1074.8m。問3──」
「全然説明になってないだろうが……とりあえず日本語で説明してくれ」
「じゃあ今のは何語だと? お前面白いくらい文系だよな」
 もしかすると超文系には全部漢数字で書けば解りやすいのか? 音速が秒速三百四十メートル……
「お、粟飯原あいはら、すげー発見! 漢数字だと俺計算出来ない」
「相澤。よく遊びよく学べとは言うが、両者を一緒くたにするな」
 お前教えられる側だって自覚は? まあいいけど。

END.


 そうか音速は時速1224kmか。(ふんだそれがどうした)
 これでもネットで少し調べてます。小学3年生のマモルの知識に負けてますワタシ。あまつさえその兄達(二人とも理数系)には説明させられません。マモルに色々教え込んでいるのは大抵尚兄なんですが……。
 どうでもいいけど最後にマモル達がやっているのはセンター入試の問題です。マモルは途中の計算式をすぐ省略するので教えるのは下手。
 友人の姓が初めて出てきました。アイザワとアイハラで出席番号並んでいます。

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