[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

 
空き部屋の冒険

HOME INDEX


 女の子が欲しかったわぁ、と、お母さんはうっとりした顔で呟いていた。
 それ、「女の子ならいろいろ着せ替え出来たのになあ」って聞こえる。自分の着せ替えだけで我慢しなさい。何かお父さんのツッコミ入るかと思ったけど、お父さんもタバコを吸ったりうろうろしたり、何か落ち着きない。
「そっかー、オトコはやっぱり娘が欲しいもんなんだ」
「お、衛がまた一つオトナになったらしいぞ」
 退屈そうにしていた透兄が爪先で蹴った。うん、こうやって部屋から追い出されて廊下で男ばっかり並んでいると、ちょっとね。赤ちゃんが生まれる時病院の廊下で待ってるお父さん?
「サエも大変だよなぁ、うちの家系、女少ないから」
「でも七五三って秋じゃなかったっけ」
「ほれ、じいちゃんが入院してたから」
 尚兄は色とりどりだけど書いてあることは暗号みたいな雑誌を読んでいる。そのテレビの中身(この前ゴミステーションから拾ってきて尚兄と透兄と三人でカンペキにバラした)みたいな写真、見てて何かわかるもんなの?
「着物って暑そうだよな」
 サエ、着物なんて着たくないって言ってた。まあね、逆上がりとか階段二段抜かしは出来なさそうだけどね。でもあの帯締めると空手チョップしても痛くないんだって。じゅうそうこうって透兄言ってた。すげーサエ、オレの奥義爆れつメガクラッシュパンチを受けてみろ。オレも五歳の時着たけど男の着物はそんなに面白くないぞ。じゅうそうこうじゃないんだ。
「透兄、じゅうたんのしみ発見! 犯行現場はここだ!」
「キミの初歩的推理ではその程度さ」
「犯人はこの中にいる!」
「犯人は貴様だ! おとなしく神妙にしろい」
「尚兄、それじゃ銭形平次だよ」
「つーかそれ、さっきお前が飲んでたグレープジュースとちゃう?」
 失礼な。オレはちゃんと座って飲んだからこぼしてないもんね。よその家じゃん。
「もう、静かにしなさい、あんた達」
 ドアが開いたと思ったらお母さんに怒られた。


 お、秘密の部屋発見。てい察に行ってきます。
 うちの畳はものやマットで隠れちゃっているからつまんない。この足の裏のザリザリ感がいいのに。オレ畳のにおい好き。ワビサビですな。つるっと滑る方向と、滑んない方向がある。
 サエの着物が入っていた紙とか包みとか、ちらかしっ放し。おお、この紐は何だ? これ使わないのかな? これを手と足に巻いて人質の完成。ダメじゃん探偵が縛られたら。
 畳の縁はうちのと違って紺色に金のスジが入っている。畳ってすっげえ太い針でぬって作るんだって。でもどこをぬうんだ? このい草のとこってどこまでい草なんだろう。とんとんやっても床みたいな音しないし。もしかして1メートルくらいの厚み? でも草だけだったらこんなに堅くないよな。きっと中に鉄板が入っているんだ。畳もサエもじゅうそうこう。
 よし、探偵は冒険に出発するぞ。
 まず最初の難問は、この畳の縁だけを伝って向こう岸にたどり着くことだ。簡単簡単。ケンケンだって行けるもんね。あ、途中でサエの着物の紙がじゃま。さあ、道が分かれているぞ。右か左か? そういう時は真ん中だ。到着! タイムリミットまであと5秒、さあ急げ。

 青い紐と赤い紐。
 どっちかを切ると爆発しちゃうんだ。ううむ、ヒントなしですか。探偵ピンチ。
「ダメだよ、切ったら」
 タンスの横にかけてあるおばさんの着物の側にいた女の子が言った。切んないって。
「これ何?」
「帯紐。帯の上に結んであるでしょ。どれが似合うかさんざんもめていたのよ」
 うーむ、こんな紐一本で。あ、これビーズついてる。
 この子も着物だ。何だサエの他にも女の子いたんじゃんうちの親戚。ええと誰だっけ、着物着ると別人だよな。むむ、これはもしや変装か?
「オレの目はごまかせないぞ! お前が真犯人だな?」
 びしっと指さすと女の子はアハハと笑った。
「あたしが犯人だという証拠はあるんですか、探偵さん?」
「それ犯人しか言わないセリフだもん」
「ブー。そういうのはダメ」
 さあ困ったピンチ。証こどころか事件そのものがないぞ。事件。あ、そうだ、じゅうたんのしみ。
「今日は賑やかでいいね」
 真犯人は側にあった紙をひらっと寄せて、空いた場所に座った。隙のない身のこなし。ただものじゃないな。
「あれ、もしかして近所の子か何か?」
 隣の向こうがお茶の先生なんだ。サエと二人で探検してたらお茶もらったもん。すげー苦かったけど面白かった。だから着物の人は珍しくない。
「サエの他に女の子はいないよ、ここのお家」
 なーんだ。道理で見覚えがないと思った。
「サエの着付け見てくればいいのに」
「だって名探偵が一人で暇そうにしていたから」
 真犯人はクスリと笑った。
「おお、挑戦なら受けて立つぞ」
「じゃあ、なぞなぞしよう。あたしの名前をあててみて下さい。ヒントはこの部屋にある何かの色です」
 はっはっは、任せなさい。


 畳は緑。黄緑かな? でもきみどりなんて名前ないもんな。
 タンスは紫っぽい茶色。おばさんの着物は薄い水色。白もピンクも黄色も使ってある。あ、ここ紫。
 紙は白。帯紐は青と赤。
 あ、そうだ。オレは黒と肌色と深緑と白と、靴下に紺色の線。真犯人もやっぱり白と黒と肌色と、えーとこの着物は何色だろう。暗いからビミョウ。
「肌色なんて色はないよ」
「人種差別だから?」
「……時々変なこと知ってるわね探偵さん」
 オレが使っていたクレヨンと尚兄が使っていたクレヨン、色の名前が違うんだもん。「うすだいだい」が「はだいろ」なんだ。尚兄に訊いたら「日本人は黄色人種だけど世界には黒人も白人もいるから」だってさ。でも探偵の謎解きの仕組みは内緒。
「電気つけていい?」
「どうぞ」
 電気つけても真犯人の着物の色はよくわかんない。サーモンピンク? 白い細かい模様が入ってる。七五三用の派手なやつじゃなくて、やっぱりお茶会用なのかな。
「もう一つヒント」
「そうねえ、探偵さんには難しいかもね」
 真犯人はにこっと笑った。
「もういない鳥の名前」
「アメリカリョコウバト! 最後の一羽はマーサ」
 よく知ってるね、と真犯人はまた声を出して笑った。そこは突っ込むところでしょ。芸の道はきびしいのだ。
「ドードー鳥、オオウミガラス」
「マジメに考えなさい」
「はーい。でもトキだったらまだいるじゃん」
「あれは日本のじゃないもの……」
「お、ひっかかった! じゃあトキだ! 正解?」
 真犯人は目を丸くした。あ、サエのおひな様に似てる。
「もう、ずるいなあ」
「じゃあトキって名前なの? 変わってるなあ」
「探偵さん、トキをよく見たことないでしょう。テレビじゃ解りにくいかかもしれないけど、とても綺麗な羽根なのよ」


 ──これがとき色。綺麗でしょう?


 サエはしかめっ面をしていたけど、照れてるだけだった。化粧までしてた。マゴにも衣装。じいちゃんに見せる為なんだから孫でオッケー。馬子だよ、と透兄に突っ込まれた。わかってるって。
「やっぱり女の子ねぇ」
「あーあ、うちも娘が欲しいわぁ。三人も息子いるんだから一人くらい……」
「いいお召しね。サエちゃん、どう?」
 キレイかもしんないけど、それより重そう。(後でサエに訊いたら「すっげー重かった!」って。やっぱり)。髪もぎゅって縛ってるから痛そう。辛いね女の子の七五三って。でも嫌がってた割にはうれしそうなんだよな。絶対違うって言うと思うけど。
韓紅花からくれないってどういう意味?」
「あら衛クン、よく知ってるわね」
「この子何でも聞きかじってくるんですよ、もう」
 サエの着物の色にはそういう名前があるんだってさ。
 鴇がそう教えてくれた。
 カラッポ? くれない? カラクレ? ううむ、事件のしんそうを解くより難しいぞ。

END.


 #01キリ5000自爆、代わりに牧村天晴様・はや様・風見様よりそれぞれ『和』『未知の生物』『いろ』のお題を出して頂きました。和風ホラーにしようかと思っていたら一瞬でマモル話に化しました。
 色の名前はネットで調べました。マモルが「宗傳唐茶そうでんからちゃ」とか「甚三紅じんざもみ」とか口走ってもイヤだなあ。そして七五三話にしようと思ったくせに着物のパーツの名前が判らなかった……オイオイ。

TOPに戻る

HOME INDEX