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今夜の番組チェック
お疲れさま。
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夕日の似合う男の人に惚れちゃいました。
鳩って一瞬も立ち止まらないな。動く為にひっきりなしに餌探してるんだよね? だったら節電の為にちょっと座っていればいいのに。ぐるっぽぐるっぽ喉を鳴らして二羽でずーっと歩き回って、こらこらあたしの靴は美味しくないよ。
順風満帆なんだ。(じゅんぷうまんぱん。就職試験に出たからきっと一生忘れない)。短大出てすぐ就職出来て、結構カッコイイ彼氏とは二ヶ月目だし、虫歯は全部治し終わったし、今日はいい天気だったから帰ったらお布団ふかふかだし。明後日雨マークだけど新しい傘買ったからドンと来い。
──愛ちゃんはいつも明るくて元気が良くていいねぇ。
イエーソンナデヘヘ課長ッ。
でもねぇ、それ「愛ちゃんは悩みなさそうでいいねぇ」って聞こえる時もあるんスよぅ。
何であの人あんなに怖いのかな? あたし確かに気が利かないけど、そんなに意地悪言われるほどひどいミスした? 発注の量間違えたのはあたしじゃないもんそっちだもん、聞き返して確認したのに。なのに課長、「誰にでも失敗はあるさ」って、あたしがミスしたんじゃありませんよぅ。向こうは絶対知ってるのに。あの電話取るの来週もそのまた来週もずーっとあたしなんだろうな、誰か替わってくれないかな。
それだけなんだけど。
落ち込むほどのことじゃないもん。友達に「聞いてよムカつくっ!」って笑って話せる程度。自販機でコーヒー買ったらおつりが100円足りなかったってくらいのレベル? あの人の嫌味の値段100円。決定。
べしべしっと顔を叩いたらちょっと力入りすぎた感じ……ありゃ、これじゃ駅に着く頃にはほっぺたモミジ。たははは、もうちょっと座っていよっか。キモチいいもんねぇこのベンチ……あ、さっきの鳩。またヒトサマの靴をつついてる……餌あげてる? 若そうなのに、あの男の人。くたびれてますねぇ、よっお疲れサマ!
……ありゃ?
「あれ? 槇野」
「主任?」
ありゃりゃ、いつも柔らか〜いにこにこ顔の癒し系男、『ダンナにしたい人ナンバーワン』の本間主任じゃありませんか。驚いた、上衣脱いでネクタイ緩めて、結構オヤジ入ってる? いつもびしっとした格好してるのに。はぁ、お疲れモードですねぇ……。
「あっあのっ夕日キレイですよねここ!」
何でこんなところまだウロウロしてるの? なんて訊かれないうちにそう言ってみた。それじゃあたしが毎日ここでたそがれてるみたいっス、えーとぉ……。
「だね」
ほわーんと本間主任は笑った。ああ、余計な気を遣わせているような……疲れてる人に会社での顔させなくたって、あたしバカ?
「帰りにここで飲むコーヒーがやたら美味いんだ。缶コーヒーだけど」
「あ、でもこのコーヒー缶にしては美味しいっスよね!」
ありゃ、体育会系の喋り丸出し。いいや今更。同じ新卒の須貝君より体力あるもんねあたし、コピー用紙一箱なんて普通女の子が持たないモノ抱えて四階まで上がるしねあたし、たはは。
「うん、僕もこれは好き……あ」
二人で同時に気がついた。主任いつもは『俺』ですよね。
「何かガキっぽいな……時々つい出ちゃうんだ」
「いやぁでも主任だと僕ちゃん言葉に聞こえないです。品の良さというか。あたしなんかもうこの通り体育会系でー、たはは」
「今の女の子はボーイッシュだよね。あ、座る?」
脚の間をぐるっぽぐるっぽ歩いている鳩をよけて、じゃあ遠慮なくと座って脚をちょっと上げた。鳩の足跡もういいっス。
「今のって、主任まだ全然若いじゃないですか」
「いや、もう充分歳を感じます」
ちょっと目を細めた感じが妙にオトナのオトコって感じで、ありゃ? 主任地味でタレ目だけど結構オトコマエですか。ちょーっと頼りなさそうだけど。
「槇野はいつも明るくて、元気よくて──」
あ、ちょっと待って、今それ言わないで凹むから! 主任今せっかく新発見したのに、がっかりするよぅ。
「カッコイイね」
「……は?」
とっくに飲み終わった缶をひねくり回しながら本間主任はこっちを見て目を細めた。
夕日キレイ。見えてるのは主任の顔なのに、何故かそう思った。目尻に笑いじわ。
「あたし主任の方がいつも優しくてすっごいオトナっぽいと思うんですけど」
「いや、ただにこにこしてるのと槇野みたいにこっちまで元気にさせるような明るさとは、発散しているエネルギーの量が違うと思う」
「発散……」
太陽ですかあたしは。(っていうか主任、結構変わってる?)
「あたし発散しすぎて暑苦しいかもしれませんねー、でへへ」
本間主任は何だか楽しそうに笑ってくれた。ずっとおとなの男の人がこんな風に笑うのを見たのは初めてで、ちょっとどきどきした。
「あたしの好きなジュースって必ずすぐ発売中止になるんです! タブクリアとか」
「僕は熱血飲料が好きだったな」
「あったかくなるんですか?」
「知らないか……世代の差を感じる」
自販機の前で何盛り上がってるんでしょうあたしたち。
主任のお疲れの元は社内の冷房だった。だからいつもスーツ絶対着崩さないのか……男の人は膝掛けなんて使いにくいだろうし大変かも。
「あの電話の応対に出る人ね、僕の頃からずっと同じ人だと思うけど、メモ取ってくれないんだ」
「うわっ! そうなんスか」
「伝票見れば槇野のせいじゃないってすぐ判るから気にしないように」
「はーい!」
そうかぁ、主任も一番下っ端だった時代があるんだ。それであたしと同じようにあの人に悩まされたんだぁ。えへへ。
実は鳩よりスズメに餌をあげたがってるとか、
見かけ若いのに結構オヤジな性格だとか、
手の爪がキレイとか、
サントリーの自販機の前でつい止まっちゃうとか、
優しいのは顔だけじゃないとか。
「凄い夕焼け」
「ですねぇ、うわ、デジカメ持ってたら撮るのに!」
「そういうところ、やっぱり今時の子だな……」
だって主任。
今のあたし、夕日の中じゃなかったらちょっと顔赤いのバレバレです。
END.
「夕日とスーツって何思いつく」と友人数人に訊きました。トートツな質問に慣れている彼ら、「リストラ」とサラリーマンな答えあり、「ううむ……スーツあんまり着ないっス俺」と不正解な答えあり。「ゆうひちゃんにプロポーズする。ちなみにゆうひちゃんはあさひちゃんと双子」と力強く語った人も約一名。
スーツをトランプのハートやスペードと解釈して夕方のみ公園に現れる謎の手品師の話。というのを考えたのですが捻りすぎ。ここはひとつ穏当に行きましょう! と、ストレートに書きました。ところで愛ちゃん、キミ彼氏持ち……。
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