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秘密

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 色濃く匂う沈丁花の下。
 
 
 この季節の雨は嫌だと、花が落ちるからと。そう言っていた誰かがいた。
 慎ましやかな小さな花を鞠のように実らせた、
 檸檬のように薫るそれが好きだと。
  ──居りはしない。ただの空想だ。
 
 ただ白い沈丁花はいけない。陰を赤紫に縁取るその方が、白い花弁は一際白い。物静かでいながらこれ見よがしに香りを振りまく、無垢な子供のような目をした。
  ──こんもりと広がるその繁みの下。
 
 燻られ、煽られ、この身に深く染みついたその芳香。逃れられぬと花が笑う。星形の花弁の下から無数に覗く漆黒の目、香りにむせぶ声を聴き、哀れな虜囚の姿を凝と見守る。
 
 ぽろりと落ちるひとひらの花弁。
 
 
 黒目がちなその双眸が嘲笑わらい、小さな皓歯が闇に光る。まだ幼さを幾らかとどめたその声がこの身を吹き散らす。潤む瞳、首筋の白さ、そのか細い手首を掴んでぎりと捻り上げる妄想に身を焦がす。
 この両手が喉を締め上げる時もお前は目を細めて笑うだろう。
 
 揚羽蝶の羽根を針で止める時のようにこのおれを見つめる漆黒の目。
 何故嬉しそうに、
 
 
 雨が、その暗がりに浮かぶ幾つもの鞠を落としてしまえばいい。花冷えに身をすくめながら、地に散らばるお前を数えては一人泣くだろう。湿った土に跪き、幻の中でただ愛おしむ。爪と掌の間に押し潰される花弁は、指の下で脈打つ血潮を思い出させ、のけぞる首の白さに恍惚となる。
 
 
 闇の中でふっと消えた
 小さな踵
 探し疲れ、困憊して座り込むおれの前に
 忽然と現れては、あの輝かしい笑い声を上げるだろう
 茫然としながら痴呆のように笑い返すだろう
 
 
 ──土の中にとろけたその身を吸い上げて咲く秘密の花
 
 
 
 もう嗤ってはくれないのか。
 
 
 ぽろぽろと地に落ちるそれはお前の歯のよう。
 また根元に埋めてやろう、そうして次の春に再び笑うがいい。
 
 
 
 
 ──居りはしない。ただの幻想だ。
  これからも毎年
 
 
 
 ──ただの幻想だ。
 
 
END.

 
 イメージ、桜は死んだ女で沈丁花は少年だか無性だかなんです。そうすると一人称は年上の女? でも「あたし」は余計な色気が出ちゃうし「わたし」でもないでしょう。「おれ」の方がしっくりしたのでそのまま……(だから危険)。ということでタルホ読了記念に。

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