ランゲルハンス島航海記//文学部唯野教授/魚籃観音記/猫の文明/エムズワース卿の受難録/銀齢の果て/日本以外全部沈没/
ランゲルハンス島航海記(博品社/ノイロニムス・N.フリーゼル←この著者名も真偽アヤシイ) 神田古本市でタイトルを見るなり衝動買いした本。医学用語を駆使したガリヴァー旅行記の踏襲だけどおちゃらけ度がかなり高く、物語としての面白さは皆無。単なる言葉遊びで終わっているのが残念。でもこのタイトルにはらたいらさんに1000点的なものを感じてしまうんだ……。訳はかなり苦労しただろうことが忍ばれる。ちなみにこの出版社は「真面目くさった顔で嘘っぱちを書いた」ワタシ好みの本を色々と出している。(『鼻行類』を強くお勧めする)。
○文学部唯野教授(岩波書店/筒井康隆) 学内の派閥抗争+『ソフィーの世界』文芸評論版。しかし『ソフィー』よりこっちの方が断然面白いです。蘊蓄の背景になっているストーリーの差が違いすぎ。評論なんて全然興味なかったワタシが異化とかディコンストラクションとか呟いているんだからおかしなもんです。まあエイズに対する嘲弄はどうかと思うけど、そんなの読み手が普通の理性持っていれば解ることだし。教授界のくだりは大変生々しくてリアル。そうそうこんなひどい講師いるんだよなぁ……とか。ところで後期講義分は出ないんだろうか、ぜひ読みたい。
魚籃観音記(新潮社/筒井康隆) 短編集。ショッパナの「魚籃観音記」は『西遊記』の観音サマと悟空がひたすら……の目が点になるギャグエロ話。そんなもん書いてもこの作家らしい味わいが漂うのはやっぱり巧いんでしょう。以下、シュールな「市街戦」やSFっぽい「ラトラス」など佳作が多い。
猫の文明(毎日新聞社/赤瀬川原平) 写真のたくさん入った、猫のお茶会に関する散文?集。猫(時々犬も)のいる風景を写真にして、「この猫は茶会に来たお客を出迎えているところで……」などとしかつめらしく解説する。確かにそう見えてくるから面白い。いいオトナが道端で空想しながらうふふと笑う、そんな余裕を持ったヘンなオトナというのもいい。
エムズワース卿の受難録(文藝春秋/ペラム・グレンヴィル=ウッドハウス) ウッドハウス選集2。この作家の作品に触れるのは初めて。古き良きイギリス(クリスティと同世代)の質の良いユーモア・ナンセンス。カボチャとブタとバラが好きな、少々おっとりとしすぎたエムズワース伯爵が次々と騒動に巻き込まれ──あるいは引き起こし──めでたしめでたし、で何故かうまくまとまってしまう喜劇短編集。おとなの為のおとぎ話。
おっかないレディ何とかやら恐るべき問題児の次男やらスコットランド人の庭師やら、イギリスのにおいがぷんぷんとしていて、(ミステリ要素はないけど)クリスティ好きな人ならきっと楽しめる。巻末の、別の作家による「ウッドハウス流に書いたホームズ」パロディは全くいただけないけど、そんなものは何ら問題ではない。
○銀齢の果て(新潮社/筒井康隆) (老人週間にこれを読んだのは単なる偶然。図書館の采配)。国民の1人が7人の老人を扶養するに到った日本において、70歳以上の老人同士によるご町内バトルロイヤルが厚生省の指示により始まった。今更言うべくもない『バトル・ロワイヤル』パロディ。(お上のやり方にぶつぶつ文句言うだけでだけで何もしない69歳以下もまた、現状のブラックパロディ)。老人一人一人のイラストは山藤章二氏、作中の戯れ唄の作曲は山下洋輔氏とえらいことになっている。ええと、一体何人出てきたんだか、50人はくだらないと思うんだけど(こんなにキャラの平均年齢の高い小説は他にあるのかな)それぞれ個性的。それぞれドラマがある。若い年代には絶対書けない。ただのブラックなスラップスティック・コメディでは勿論ない。キャラの生死は無論、一字一句を背負う覚悟があるからこそ書けた小説。畏れ入る。ちなみに作者は執筆当時72歳。
○日本以外全部沈没(角川文庫/筒井康隆) このいかにも筒井節なタイトルにまず爆笑。表題作はパロディであり、それ以上のものではないので小松左京の『日本沈没』を読んでからをお勧めする(未読でも読めないことはない)。それにしてもこれを短編集のタイトルに選ぶのはあざといな売り方が。(※映画『日本沈没』が上映されたばかりです)
解説によれば昭和37〜51年(1962〜1976)に書かれた短編ばかり。なので農協ツアーとかゲバルトとかネタは古いんだけど、諷刺ダシがよく効いていて今でもウマイ。『新宿祭』は特に凄かった。『農協月へ行く』や寸劇めいた『ヒノマル酒場』も良い。オーソドックスなSFショートや一味違う『人類の大不調和』などを箸休めに、最後まで楽しめた。