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ほんのはなし
読書メモや感想。勉強本が多い傾向あり。
※ 副題など省略していることが多々あります。敬称略。

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4 ミステリ・冒険


紅はこべ暗号名『SIMITAR(シミタール)』・ロス教授の奇妙な体験蠅男召しませMoney!葉桜の季節に君を想うということステップファザー・ステップ八十日間世界一周ダンテ・クラブ江戸川乱歩全集千尋の闇仮面の真実あの日、少女たちは赤ん坊を殺したフェニモア先生シリーズ裁かれる花園オーデュボンの祈り半七捕物帖半身


紅はこべ(河出文庫/オークシィ(オルツィ男爵夫人)) 舞台はフランス革命時代。政府を欺きギロチンから貴族達を救い出す「紅はこべ」とは一体誰なのか? 著者がイギリス貴族の夫人であることを念頭に置きながら読むと面白い。古典的冒険小説としては『ゼンダ城の虜』なども有名だが、そちらの古くささとは異なりスリリングでジェットコースターのようで、実に面白かった。冒頭あたりのフランス貴族の描き方はちょっと鼻持ちならない気がするが、そのへんに目をつぶって読むべし。

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暗号名『SIMITAR(シミタール)』/ロス教授の奇妙な体験(シミタール:サンケイ文庫、教授:扶桑社/ピーター・ニーズウォンド) それぞれ上下巻。出た順序は逆だけど、解説にもある通り、この順序で読む方がいい。ただし前者は絶版なので神保町などで黒い背表紙を探しまくるか再版を祈るべし。
 冷戦時代のアメリカのDIA(CIAと並ぶ組織)モノ。スパイものではあるんだけど、実はとんでもないSF設定があって、それは「ロス教授」で初めて明かされる。荒唐無稽・安易な部分もツッコミ無用に面白い。ラブシーンもたっぷり書かれているけどスポーツっぽいというか、エロくはないな。サービス精神たっぷりのエンターテインメント小説。

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蠅男(講談社大衆文学館コレクション(文庫)/海野十三) 実はこの作家初読。『俘囚』という作品を底本にしているらしい。解説を読んだ限りではそちらの方がより好みかもしれない。  乱歩や夢野久作の更に先人なのに古くない。滑稽さを取り入れている点がこの系列の作家には珍しくないかな? 横溝の探偵の元祖というべきか。ドテラ着て味噌屋のバイク(ぶんどった)をぶっ飛ばす探偵を大真面目に描いてみせるこの作家、ただ者ではない。探偵がただのシロウトにしか見えないけど、かえって冒険モノの雰囲気が出ていていい。

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召しませMoney!Script1/TERU) Web小説。ひょんなことで美人怪盗のフィアンセになってしまった冴えないサラリーマンが……で始まる痛快マネーゲーム。スカッとしたい人にぜひおすすめ。
 まずは長さにびっくりした。(500KB超えてます。もしかして文庫本2冊くらい?)なのに一気に読んでしまった……紙の本ならともかく、ネット上の小説というのは読むのに慣れが必要なので、この量を一気に読ませるというのは凄い。コミカルでテンポが良くて、ビジネスはちょっと……という人(ワタシもだ)にも大変面白く読める。下調べなどきちんと勉強してこそ書ける小説です。
 もちろん、会話文が続きすぎるなど、長編小説の技巧としてはどうかな?という問題や、設定として強引な箇所もある。けれどそんなものはちゃんとした編集者がつけば修正出来る。肝心なのは面白いかどうか、そして面倒くさそうなビジネスの話を読者に判りやすくor判ったつもりにさせられるかということで、これは既にプロレベルの力量。
 もしかすると、作者は不本意かもしれないけどコミックの原作に向いているかもしれない。絵のイメージは北条司。続編など色々あり。

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葉桜の季節に君を想うということ(文藝春秋/歌野晶午) タイトルは昔の文学青年風だがミステリ。そして……うわあ、何書いてもネタバレになってしまう。読む前にネタをバラした人をタコ殴りにしてよし。何となくどこか変だなと思いつつ素直に読んでいけばある箇所で何ィ!と前の方をもう一度読み直すこと請け合い。
 ちょっとハードボイルド。そしてハードボイルドといえば主人公はロマンチスト。タイトルがよく似合う。

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ステップファザー・ステップ(講談社/宮部みゆき) プロの泥棒がひょんなことから双子の少年の父親役を務めることになる、軽いミステリー風味のオムニバス。ちょっと赤川次郎を思い出す。この作家は時代物もオカルトもずっと重いシリアスも書くけれど、これくらいコミカルな書き方が一番面白いと思う。ぶつぶつ言いながらほだされていく主人公が魅力的。判別のつかない双子は個々の個性が欲しいけど……続きが出ればいいな。

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八十日間世界一周(創元推理文庫/ジュール・ヴェルヌ) 今更気づいたんだけど、何を隠そうワタシこの本読んだことありませんでした。(そうやって読まずじまいになっている名作って結構あるな)。
 ニオイがバローズの『ターザン』と似ている。SF時代の曙とでも言うか、ジャングルには人食い人種がおり東洋人は怪しいカタコトで話し紳士淑女を乗せた列車や豪華客船が世界中を駆けるようになり始めた古き良き時代、いや新しき良き時代。バローズが未知の類猿人(空想:当時の学説かも)を設定したのに対し、ヴェルヌはあくまで自分の知り得る最先端の世界知識(事実)を総動員している。インドではサティー(夫への半強制的殉死)が行われ人々は象に乗り中国には阿片窟があり日本には天狗の見世物が、と、西欧人から見たエスニックな知識が満載。それに平然と立ち向かう主人公は(ヴェルヌが理想とする?)徹底的にイギリス紳士。この人はジャングルの中でもお茶の時間になればテーブルを広げていたことだろう。当時の人々がこれを読んで未知の世界に憧れたのと同様、現代人は紳士の冒険時代にうっとりとしてしまう。

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ダンテ・クラブ(新潮社/マシュー・パール) 蘊蓄歴史ミステリ。ミステリより蘊蓄度の方がやや高め、持久戦に強いアナタに。
 舞台は1865年のボストン。南北戦争が終わったばかりで黒人や外国人への蔑視も甚だしく、街には傷病兵や退役軍人があふれ、紳士は夜間の外出には護身用にライフルを持ち歩くこともあったような時代。そんな頃にダンテの『神曲』を米語訳しようと集った文士5人、中心は詩人ロングフェロー。『神曲』米訳の出版を止めようと(※)躍起になるハーバードの学長一派の妨害の中、ダンテ生誕600年に向けて翻訳は進められていく彼らが猟奇殺人に巻き込まれる。
(※『神曲』はカトリック色が濃い。当時のアメリカはアンチ・カトリックなプロテスタントが主流。また当時知識の神髄とされたラテン語ではなくトスカナ地方のイタリア語。なので強い反発があった)
 当時の文学者の雰囲気をよく出している。ちなみにロングフェロー以下、多くの登場人物は実在の人で、日記などの資料を良く使っている。それもその筈、作者はダンテ研究が専門なハーバードの若い学者だそうだ。めちゃくちゃインテリ……クラブの面々の会話を読みながら思い出したのはアシモフの『黒後家蜘蛛の会』。ヘンリーはいないけど。
 この時代のアメリカについては全然知らないけど面白く読めた。なので予備知識は要らないと思ったんだけど、書評ブログなどちょっと見てみたら戸惑っている人が多かった。本編を読む前に巻末の「史実について」を先に読んでおくのがいいかもしれない。そこに漏れがあるとすればピンカートン探偵社。(ホームズの『恐怖の谷』を予備知識として読むといい)。
 確かに『ダンテ・クラブ』は取っ掛かりが良くない。これは『神曲』の『地獄篇』そのものだ、と気づいた彼らが重い腰を上げるまでにページの3割が経過する。事件には全然関係ない、ロングウェローの亡き妻の回想などは、厳密にミステリだけ読みたい人は「削れ!」と言うかもしれない……でもまあ、このスピードがこの浮世離れした主役達には似合っている。ただし犯人判明からのもたつきはちょっと気になるけど。それにしても『地獄篇』モチーフの殺人がこんなに猟奇だとは……ムゴイ。蠅が大嫌いになります。
 レビューで何人かの人が書いていたけど、興味のない人でも多分、読後に『神曲』を読んでみたくなります。

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江戸川乱歩全集 光文社による太っ腹な企画、乱歩の文庫版全集。全部はタイトルだけでもメモしきれないので好きなのを抜粋。
全集だからとにかく何でも収録されている。雑誌に載った乱歩自身のコメントもほぼ一編ずつついている。未完作品も多いし、通して読むとアイデアが重なっていたり、モーリス・ルブランのルパンものの翻案(穏便に言えば)がごろごろ出てきたりするので、ワタシとしてはふと思い出した時に一編ずつ読むのがいいと思う。そんなことは超越している乱歩ファンはどしどし読むといい。
1.屋根裏の散歩者 デビュー作『二銭銅貨』など短編ぎっしり。正統派なミステリとして秀逸なものは『心理試験』。『二銭銅貨』や『D坂の殺人事件』もいい。いかにも乱歩らしい雰囲気で言えば『赤い部屋』『人間椅子』(これ随一)そして『屋根裏の散歩者』。個人的には、『算盤が恋を語る話』のような可愛らしい作品も好き。とにかくこんなスゴイ全集を出した出版社と編集部御一同バンザイ♪
2.パノラマ島綺譚 表題作は乱歩の「浅草趣味」(チープで下町風の見世物が好物)がよく現れている。これも派手派手しくてまとまりも良くていいけど、圧巻は『闇に蠢く』! 出た出た出た、と読みながら呟いてました。この陰鬱でグロテスクで何故か屍体まで美味しそうに見えてくる病的世界、乱歩の醍醐味です。
3.陰獣 泉鏡花を思わせる『人でなしの恋』がいい。『踊る一寸法師』『毒草』もお勧め。しかし何といっても最後の『芋虫』!! 乱歩作品で何が好きと問われればこれを挙げようと決めています、昔から。以前読んだのは伏せ字部分がこれほど多くなかったような気がしたけど、解説を読むと、どうもそれは別の版だったらしい。校異を読み比べると面白い。
4.孤島の鬼 乱歩長編の最高傑作との評も高い。確かに完成度も面白さも充分だけど異色モノだと思ってました。不憫な探偵役が何だか大変純愛な人でしかも同性愛者で主人公に恋しているというのが何だかスゴイ。主人公の、それを自分に都合良く知らんぷりしつつ利用する態度が女性的で面白くて、冒険推理以外の部分も随分とよく出来た小説。
5.押絵と旅する男 これを読むまで京極の「匣」に元ネタがあったとは知りませんでした。あれはすごく好きなんだが……(乱歩のこれも勿論佳作だけど、それをうまく肉づけした傑作だと思う)。ついでに言うと小野不由美の『東亰異聞』もきっとこれが元でしょう。
 次いで『蟲』。乱歩のエログロ真骨頂。これ読んだ直後モノが食べられなくなるのは『ドグラ・マグラ』の比ではないので注意! ホラーと滑稽は紙一重なのかもしれない。
7.黄金仮面 ここでは△評価は載せない筈なんですが一つだけ書きたい。これはルパン対明智ものなんだけど、ルパンが殺人を肯定しています。それだけはいかんと思う。
18.月と手袋 乱歩作品はマンネリが多いので、ちょっと構成が珍しいものはつい面白く感じてしまう。『影男』は書き流してオプション追加していったら何だかちぐはぐになってしまった、という雰囲気だけど、不気味な怪人達の知恵比べが楽しい。(乱歩の(うんざりするほど)好きなエログロバノラマ世界に突入しなければ楽しいままで終わったのに)。表題作『月と手袋』は乱歩にしては詩的なタイトル。中身はハラハラスリリングな良くできた2時間ドラマ。完全犯罪に挑む不幸な犯人達が良い。

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千尋ちいろの闇(創元推理文庫/ロバート・ゴダード) いかにもイギリス的な歴史ミステリ。舞台は2つ、20世紀初頭(大雑把に言うとチャーチルの若き日〜老年期頃。ミステリファンならミス・マープルものとイメージを重ねるといい)、それから現代(といっても1977年)。主役の一人であるストラフォードという政治家、もしくはそのモデルが本当にいたのかどうかは知らないけど、実在か否かはたいしたことではない。ジョセフィン・テイの『時の娘』が好きな人ならきっと楽しめる。
 現代側の主人公マーティンは女と酒にだらしのないバツイチ元歴史教師。気鋭の青年政治家ストラフォードは何故婚約者に突然ふられたのか? という、ストラフォードの回顧録の謎から彼の探究は始まる。話運びが巧みなので一気に読破した。この回顧録が小説のかなりの部分を占めるが、これが実にエレガント。ストラフォードの元婚約者エリザベスは老いて尚魅力的。マーティンと謎めいた美女のロマンスも一応面白くはあるんだけど、騙しあいと猜疑心だらけのこの小説の中で光り輝くのはやはりストラフォードとエリザベスそれぞれの意志の貫きかただろう。優しく読みやすい文体の女性の訳者であるのも成功した理由の一つかも。

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仮面の真実(創土社/バリー・アンズワース) 舞台は中世イングランド、冬のとある町。語り手はドロップアウトした元副司祭。旅回りの貧しい役者一座が殺人事件に遭遇し、それを芝居にするんだけど、当たり前に考えた筋だとどうも辻褄が合わない……旅回りの一座という珍しいキャラクターと、そのまま舞台劇になりそうなプロットがいい。この時代の知識がなくても割とスムーズに読める(訳者によれば時代考証はきちんとなされているそうだ)。劇に関する部分はかなり面白い。
 役者達は時にアドリブでセリフを繋げ、時に観客の反応を見てストーリーも変える。これはきっと、うまく映像化したら凄く面白くなるだろう。ただ文章は平易というか訳文であるせいか、坊さんの一人称だからこんなものかもしれないけど、臨場感は今一つだった。まあ中世演劇自体が馴染みがないせいかもしれない。一座の面々が現代人のように思えるのは気のせいかな。でも映画化したら観てみたい……。

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あの日、少女たちは赤ん坊を殺した(ハヤカワ文庫HM/ローラ=リップマン) センセーショナルな邦訳タイトルは、センスはともかくとして(原題は"Every Secret Thing"、そっちもワタシにはピンとこないけど)この小説に実にマッチしている。平易な文章の中にある不気味さ、少女の怖さ。黴の生えた資料を積み重ねて書いただろう蘊蓄ミステリが多い中、珍しいくらい秀逸なテラーミステリ。
 炎天下に置き去りにされた乳母車と赤ん坊。11歳の二人の女の子がそれを見つけ、助けようとする──7年前の痛ましいその事件と二人の少女のその後、そして「今」の事件。作者はあえて焦点を絞らない。
 日本で騒がれっ放し(の割に全く改善しない)の少年犯罪とその裁判・報道に関するくだりも興味深い。そのへんはさらりと流しているけれど。というより、この小説は全てさらりと書くことで怖さを表現している。ただ所々出てくる太字は好きじゃないな、少年マガシンの「!」とか「?」みたい。
 原点となる事件そのものの経過もかなり読み進まなければはっきりしないのは、(読者には皮肉なことに)登場人物の誰もがそれを知っているからだ。かといって、その曖昧さにイライラすることはなかった。女性群の心理描写に比べ男性の描写はまるで添え物なんだけど(主要キャラはほとんど女性)、変に女っぽい思考の男を描かれるよりもいい。フェミニスト作家の嫌なクセは感じない。
 『女心の闇』と、この文庫の帯には書かれているけれどまさにその通り、11歳にして女は女。ちなみに、後味は良くはない。すっきり爽快なスポーツみたいなミステリを期待して読む本じゃないことは確か。だから、女だって。

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フェニモア先生シリーズ(ハヤカワ文庫HM/ロビン=ハサウェイ) 昔気質の心臓外科医を営むかたわらアルバイトで探偵もやるフェニモア先生。趣味は歴史蘊蓄、古い車を乗り回し、服はアウトレット、ネコもアウトレット(で拾った)。クリスティーの作風でホームズものを書いたらこんな感じかな、と思わせるような読みやすい雰囲気。トリックとかエロとか犯罪捜査蘊蓄とか猟奇とかに偏りがちな今どきミステリに飽きた人にぜひお勧めなオールドファッション。キャラもいい。作者は女性でダンナが心臓医だそうです。変な女性臭さがないのも良い。
 シリーズは以下。
フェニモア先生、墓を掘る  死んだ飼い猫を埋めようとしていた少年を手伝ったら女性の遺体を見つけて……。キーとなるのはネイティブ・アメリカンのラナピ族。
フェニモア先生、人形を診る 家族と屋敷を模した精密なドールハウスを持つ旧家にて、人形に何か起こる度に殺人が。と書けばクリスティの『そして誰もいなくなった』を誰しも連想する。(小説内にもそんなことが書かれた部分があるけど、そう書いたのは確信犯かなと疑ってしまうほど似てしまったのはどうだろう)。
フェニモア先生、宝に出くわす 今回の舞台はアメリカ独立前の雰囲気が残ったゆかしい旧家。海賊のお宝伝説も残る、何だかトム=ソーヤーな雰囲気の田舎。原題の"The Doctor and The Dead Man's Chest"って何だそれブキミだなと思い、よく考えたらあれでした、「死人の箱にゃあ十五人、よいこらさあ、おまけにラムが1瓶だ!」まあ、宝島というよりやっぱりトムな気もしますが。

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裁かれる花園(ジョセフィン=テイ/論創社) 派手な表紙が何だか「らしく」ない、『時の娘』で知られるテイの作品。舞台は女子体育大学。著者の経験を活かしたとあるので、てっきり講演に来た主人公の心理学者のことを指しているのだと思ったら、テイ自身が体育大学出身だそうでびっくりした。歴史か文学専攻だと思ってた……。
 事件が起こるのはページが4/5ほども進んでから。これミステリ? とちょっと首を傾げたくなるような展開で、探偵の名推理や謎解きを期待する人には肩すかしかも。とはいえ、全然飽きなかったんだよなこれが。きゃぴきゃぴした女の子達の日常生活、誰かの頭上に一瞬魔が差すその時にも世の中は平和に動いている、そういうものがイギリスらしい学園物語の裏にひっそりと描かれている。

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オーデュボンの祈り(新潮社/伊坂幸太郎) どうも、最近の「異色作」とか「新時代の」なんていう枕詞が帯についている小説は、ライトノベルズ臭さがある。(ワタシは旧字体で書かれた古書もライトノベルズも好きですよ)。何をもってライトノベルズと定義するのかと問われると我ながらわかんないけど、何だろう、伝統やら純文学やらに裏打ちされていない、「専門家」でない人が逆にそれを強みにした小説? 近頃の作家は本を読んでいないとよく書壇の人がぼやいているけど、伝統が必ずしもスバラシイわけではなくむしろそれに染まりきったのはヤバいというのは魯迅だって悩んでしつこく書いている。もちろん、何も予備知識がないから無垢な新しいものを書けるというわけでもないけれど。ええと何を書いてたんだっけ? ライトノベルズ臭さ。『オーデュボンの祈り』にはそれがある。(尤もワタシの嗅覚があてになるとは思いがたい)。伊坂氏の他の本はこれから読むのでこの一冊に限ってのことかもしれない。
 地図に載っていないどこかの島。しかし現代日本。リアリティのないその島で一番リアリティのないもの、予知をする喋るカカシが殺される。カカシは何故自分の死を予知しなかったのか? という、前提からして普通でないミステリ。
 この本はミステリというより『頭の体操』。大変システマチック。著者がシステムエンジニアという先入観があるせいかもしれないけど、フローチャート書いてここはこうここはこうと条件書いて(「〜である筈だ」という条件がとても多い。まあ、それが前提なんだから当たり前だけど。作者のプロットの作り方が、従来の作家と違うような気がする。紙細工のお城みたいに組み立てたらこうなった。そういうイメージのある小説。あえて「リアリティのなさ」を狙っているのは面白いんだけど、もっとブチキレていい。そういう意味でウサギは良かったな、日比野みたいなキャラは面白いけど中途半端なリアリティがあってこの島の住人としてはどうよという気がした。読後感は悪くないし面白いのに、この作者、この作風を続けているのだとしたら損をするだろうな……日本ではまだまだ「本格」が好きな人が多いだろう。でも「本格」なんてクソ食らえ精神でこのまま先に先に行くとしたら、この人はスゴイ作家になれるんじゃないだろうか。(既に直木賞候補にすら上った、定評ある作家に対して今更書くことじゃないね)

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半七捕物帖(光文社文庫/岡本綺堂) 全6巻。引退した岡っ引きが語り手の時代モノと思いきやミステリ。和漢の知識の豊かさが窺えるのにお高くとまらず、いなせな江戸っ子言葉と風俗、そして西洋ミステリの影響もちらちらと覗く不思議な小説。もちろんミステリとしてだけでなく、時代モノとしても楽しめる。それにしても半七老人の博学なこと。文庫版の乱歩全集といい、光文社文庫は古典ミステリの宝庫です。ラストの一編のみ主人公が違うのでちょっと雰囲気が違う。

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半身(創元推理文庫/サラ・ウォーターズ) 19世紀イギリスを舞台とした、格調の高い時代ミステリ。
 主人公は女性用牢獄を慰問に訪れた貴婦人。教養が高く(この時代のイギリスではそんな女性は変人扱いされる)、お世辞にも美人とは言えない。尊敬していた父を亡くしてから鬱々として気が晴れない。妹は結婚間近だし母は抑圧的。孤独と憂悶の裡にいた彼女は牢獄で菫の花を手にした美しい女囚を見いだす。優れた霊媒であり、強力な支配霊を持つシライナ・ドーズという娘を――。
 時代ミステリ、特にヴィクトリア朝が好きな人にはうってつけの作品。牢獄の描写や主人公の閉塞的な生活のリアリティは素晴らしい。ただ読み手を選ぶのは、主人公に同性愛的傾向があり、妖しく耽美な雰囲気がある為。これはこの作品の特長であり、またミステリとしての重要な伏線でもあるのだけど……そういうのがダメな人には向かない作家かもしれない。
 ミステリとしては単純ながら、あっと驚くどんでん返しが楽しい。

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