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戦略美術部 超番外:破天荒に行こう?3


「ネコミっちゃん冒険出ようぜ〜ね〜行こ〜」
 《冒険者の宿》の隅のテーブルは暇そうな吟遊詩人に占領されている。日が落ちる頃になると急に生き生きとして(変身病患者ライカンスロープに病気をうつされたんじゃないのか?)あちこちの酒場を巡り歩いて歌うのだが、日中はこの通り。何でこいつはここの常連なんだろう、おとなしく夜の帝王をやっていればいいのに。
「羽咋暇?」
「おおうっすっげー暇!」
「この本魔法学院の図書館に返却してきてくれないかな、そろそろ期限が切れるんだ。一応延長できるかどうか訊いて」
「違うの、俺の求めているのは初めてのおつかいじゃなくて冒険よロマンよネコミっちゃーん」
「先輩あいつ営業妨害で突き出しちゃ駄目ですか」
「うーん、一応お客だからねー」
「ねー何か忘れてない? 俺達《強制》かかってんじゃなかったっけぇネコミっちゃーん」
 うるさいなと思いつつ床を掃き出していた手をふと止める。《強制》……何だっけ。
「魔王討伐するんじゃなかった?俺ら」
「あ、忘れてた」
「マジィ? そりゃないぜー」
 そういえば随分と平穏だと思ったら、うるさい常連客の何人かがいなかったんだ。その一人が今や特別天然記念物以上に稀少な魔王・天満だったとは長いこと知らなかったが。
「だとは思ったけどさー俺も暫くブランクあったからあれで終わりかと思ってー」
「ああ、それで思い出した」
「何よ」
 この前読んだ本に書いてあったんだが、《強制》の呪文はそれに反したことをしなければ何も起きないのだ。つまり僕がこの前魔王の居城からここに強制送還され、以来何事もなく宿屋で働いていたということは、天満の呪文条件は「今すぐ魔王退治に行け(いや、「来い」だ)」ではなく「魔王退治に行け」だったことになる。
「だから、そのうち行くよと考えておけば呪文に反抗したことにならないから、僕らが死ぬまで何も起きないよ多分」
「何だ、そうなん? 仕方ねーなー天満、じゃあ俺はちょっくらパチスロに」
 戻ってこなくていい。
 掃除を追えて厨房に戻ると、さっきの話を聞いていたらしい女将が不満そうに頬杖をついていた。
「そういえばオッサンは一人で帰ってきたみたいだけど、越生君とか邑楽とかはどうしたの?」
「さあ。あのまま魔王の城に行って返り討ちにされたとか、どこか別の冒険に行ったんじゃないですか」
「ひどい! ニャーちゃんそれでも仲間なの?」
「そういえばここを出発した時は邑楽はまだメンバーに加わっていなかったような気がしますけど。先輩よく知ってますね」
「ふふん、なめてもらっちゃ困るわよ」
 そういえば引退したとはいえ元凄腕の冒険者だっけ。
「いいなあ、あたしももう一回冒険者に戻ろうかな。ニャーちゃんどっかいいとこ知らない?」
「天満退治はどうですか」
「えーだってマサ君ずっとここの常連だったじゃない、自分のおなかを痛めた子みたいでねぇ」
ええい前置きがくどい!
 妙に耳に馴染んだ怒鳴り声に女将が入口の方を振り返った。
「あら久しぶり。今日の賄い食はマサ君の好きな照り焼き丼よ、食べる?」
「二人前! おいにゃあ、トレハンに行くぞ!」
 は?
「トレハンとはトレインハンティングではなくトレジャーハンティングだ、ふっふっふ楽しいぞー」
 誰も電車狩りなんて考えてない。
 天満はこの前の邪悪な骸骨モチーフ+マントではなく、ここの常連だった頃と同じ、でかい剣を背負ったいかにもな冒険者スタイルだった。……ふりだしに戻っただけか?
「おお、トレーニングハンティングという手もあるな。トレハン刑事?」
「天満ギャグが滑りすぎ。魔王退治はどうしたんだ?」
「飽きた!!」
 ああお前はそういう奴だよ。
「貴様は戦闘能力のかけらも意欲もないくせに貴様がいないとあのパーティは何故か目的から遠ざかっていく。ううむ、何故だ」天満は腕組みした。「戻ってみれば貴様はのんびりニラレバなど炒めおって、ええい」
「はい、照り焼き丼二人前」
「人の話を聞け! ということで貴様の好きな古本や骨董を狩りに行くぞ。これなら文句あるまい」
 それ自体はすごく面白そうだけど。
「何故魔王と連れだって冒険に出かけないといけないんだ」
「ん? 城はちょうど越生がやってみたいとぬかしたから預けてきた」
「あら、じゃあ今は越生君が魔王なの?」
「そういえば最近北の方で何やら邪悪な活動が増していると聞いたような気がするのぅ」
 ジジイいたのか。
「うむ、あいつに任せて正解だったな。ということでさあ出かけようすぐ出かけよう」
「落ち着いて飯食えよ」
 いただきます、と天満は礼儀正しく手をあわせた。


「ははあ。そりゃあ先輩も災難でしたねぇ」
 遊佐ゆさは発掘したブツの鑑定をしている僕の横で他のがらくたをあさりながら楽しそうに言った。
 天満のゲボクだというこのひょろっこい優男は一見駆け出しの盗賊だ。いや、駆け出しというのはあっている。多分元は魔法戦士か何か、しかも元・魔王の部下というからにはかなりの高レベルだったんだろうが、盗賊としては1レベル前後だと思う。よく罠にひっかかっているし。
 ……まあ、無茶な転職をした、いや、させられたんだろう。
「越生はどうしてるって?」
 ただのゲボクとはいえ魔王の城ではそれなりに勢力がある遊佐は、今でもこまめに城と連絡を取り合っている。微妙な立場だなこいつも。
「活躍なさってマス。今は臭わないゾンビ軍団を研究中デス」
「……ああそう。あ、ちょっとこれ持ってみて」
「はい? うぎゃああああっ」
「あ、一応神聖魔法かかってんだ、ふーん。はいありがと」
「せんぱぁい……」
「おいにゃあ、またまたよさそうなものを見つけたぞ。これを見ろ!」
 泥だらけの天満が満面に喜色を浮かべて担いできたのは、僕なら10人がかりでも持ち上げられそうもない怪しい像だった。
「始皇帝陵の兵馬俑っぽいな」
「何だか知らないがそれなら金になりそうだな」
「本物の5倍くらいのサイズだけどな。しかも何だよこれ、裏にメイドバイ・ボッタクリって書いてあるじゃないか。ボッタクリ商店で売ってる模造品、ヒビあり汚れあり。せいぜい銅貨5枚だな」
「ちっ」
「工夫すればネットオークションでその1000倍くらいにはなりマス」
「遊佐、お前そんな罪で捕まって楽しいか?」
 こいつらくらいのレベルだったら魔法かけてマジックアイテムとして立派に売れるだろうに。嫌だなそんな内職やってる魔王と部下。
 ぽんと天満が手を打った。
「おお、そうだにゃあ喜べ。近いうちに邑楽や飯山満が合流する。菅生にもコーモリを飛ばしておいてやったぞ」
 早くこんな生活に飽きてくれないかな、こいつ。

 

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