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戦略美術部 超番外:破天荒に行こう?2


「ふうん、それで旅してんの。大変だね」
「おかげさまで」
「ついでにこのへん荒らしてるゴブリンの集団退治してってくれない? あたしらなかなか暇なくて。宿代タダにするから」
「いいと思うよ……あ、菅生、このへんゴブリンの巣があるってさ。西の方のあの湿地怪しくないか」
 暇そうにしていた菅生がニヤニヤしながら立ち上がって出ていった。あいつなら一人で巣を見つけて一人で殺し回って一人で帰ってくる。不幸なゴブリン達だ。
「冒険者稼業もいいけど若いうちだけだよ、ニャー。ちゃっちゃと稼いで家買って堅実に暮らした方がいいよ」
 何が堅実だ、こんな村はずれで二人きりで宿屋を営んでいれば盗賊やゴブリンの被害がない筈がなかろうに。
 江古田えごた荏子田えこだ夫婦は浮世離れした僕の仲間よりは常識を備えているようだったが、わざと隙を見せて盗賊団を返り討ちにする物騒な宿屋なんじゃないかと僕は思う。
「でも一人だけ戦闘能力なくてよく無事だったね」
 亭主えごたが控えめに言った。
「大抵は菅生一人でおつりが来るし、腕力と体力だけはあるのがもう一人入ったから」
「ニャー先輩、ただいまっス!」
 村を回って情報収集をしていた邑楽おうらが戻ってくるなり扉の蝶番を壊した。お前は扉の開け閉めも出来ないのか。
「直せよ」
「はい、あ、すいません」
 邑楽はこの前《迷いの森》で拾った戦士だ。《迷いの森》というのは入口に堂々と立て札があったからで、職人的な技術で刈り込まれた低木がずらっと並ぶその迷路の中でこの大男は見事に道に迷い、腹が減ってしゃがみこんでいた。迷路の制作者(こんな立て札を立てておく馬鹿者が二人といるとは僕は思えない)もさぞ喜んでいることだろう。
 ちなみに「迷路を無視して通り過ぎる」という僕の意見と「迷路に火を放ってみる」という菅生の意見は却下され、越生は邑楽を連れて楽しそうに迷路をクリアした。ゴールにあった宝箱には《ファンケル皇帝液》というラベルがついた怪しげなドリンクが入っていたが、あまりにもアホらしいのでまだ分析してみていない。底に「火気厳禁」と書いてあるし。不思議の国のアリスの如く、邑楽に飲ませてみるのも手だったな。
「やっぱ僕がやる。お前また壊しそうだし。で、何か掴めたか」
「いえ、特に何も」
 別に期待していなかったけど。
 ここまで来るまでの間に僕らは小競り合いを含めて十数回のイベントに遭遇した。おかげで菅生と越生のレベルは上がる一方だ。羽咋は何故か吟遊詩人にクラスチェンジしてしまい、立ち寄る酒場ごとに好評を博している。
「ただいま。くくくっ、大漁大漁」
「あの、悪いけど裏回ってお風呂場に直行して……」
「これお土産、首領が持ってた宝箱に入ってたんだけどね」
「それも一緒に洗ってこい。血ィ垂らすな」
 満足そうにニヤつきながら戻ってきた菅生が卓上に置いたものを見て、部屋から出てきた越生が珍しく興味深そうな顔をした。一見は怪しい占い師が持っているありふれた水晶球だが、何かちらちら動いている。
「これ魔法のアイテム?」
「オレにはわかんないけど多分」
「ネコミもソーサラー技能取ってみなよ1レベルでいいから。んじゃ開けてみるね〜」
 止める間もなく越生が呪文を唱えると水晶球に亀裂が走り、もうもうと煙が立ち上った。江古田が換気換気と呟きながら慌てて窓を開けている。
 やがて煙の中から現れたのは、きらびやかな衣裳をまとった可憐な美少女だった。
「菅生、GO」
「え? こいつ敵?」
「いや〜ん、何故いきなり私が殺されないといけないんですかネコ先輩!」
「何か危険な妖気を感じる」
「そんな、ひどいですぅ」
 はいはいよしよし、と越生が宥めた。
「越生先輩、魔法使いの衣裳すっごいお似合いです!」
「あーそう? 僕シーフもやってみたかったんだけど」
「絶対ソーサラーです。その禁欲的なローブが素敵……」
「とりあえずあんた誰」
「菅生先輩相変わらずですね」
 溜息をつきながら、彼女は飯山満はざまと名乗った。東の某国の王女なのだが年に二回の大祭に赴く途中でロック鳥に攫われ、悪の魔法使いによって封じられたらしい。
「年に二回の大祭?」
「夏と冬にやるんです。今年は新刊を2冊も作ったのに! けれど、何でも会場が謎の怪獣に潰されたから開催地が変更になったそうです」
「封印されていたのによく知ってるね」
「オタク心をなめちゃいけません! ああ〜一ヶ月費やして衣裳作ったのに」
 さっぱり解らないが何となく近づかない方がいい祭らしい。
「ここはどのへんです? あら、結構近いのね。ありがとうございます、今から急げば閉会一時間前には間に合うわ!」
 飯山満は髪をリボンで縛り、ひらひらしたスカートの裾を片手で掴んだ。こんな王女を野放しにおいていいんだろうか。祭とやらがテレビ中継されたら国辱ものだ。いや、もとい。
「あのさ〜魔法で送ってあげるからまあお茶でも飲んで。ところで僕ら北の魔王んとこに行くんだけど、何か噂とか知らない?」
「まあ!」
 飯山満姫は裾を元通りに直し、優雅に広げて腰掛けた。
「素敵、魔王と冒険者の禁断の恋……一緒に何処までも堕ちてゆく……次の本はこれで行こうかしら」
「何か言った?」
「ネコ先輩もうちょっと露出度の高いコスチュームにしません? サークレットはキホンですよ」
「菅生、いいよ殺って」
「照れ屋さんですね相変わらず。ええと、『もしかしたら会場を破壊した怪獣と関連があるんじゃないかしら?』」
「……何でそこ棒読みなんだ?」
「まあまあ。じゃあ行ってみよっか」
 何故こんな調子でここまでレベルアップして来れたんだろうこいつらは。


 ナントカの会場跡はいっそ感心するほどめちゃくちゃだった。建物の残骸と夥しい紙吹雪。どれも本のようだったが何となく触らない方がいいような気がしたので放っておいた。
「でっかいキューピー人形が踏みつぶして回ったみたいなカンジだね〜」
 魔法使いが何とも非文学的な表現をする。
「何でキューピー?」
「それとふさふさの獣。ほら、毛が落ちてる」
 菅生がつまんだのは長さ50センチほどの金褐色の毛だった。人間の髪にしては硬くて太い。
「うひゃうひゃ、これ超面白ぇ。えー続きないのー」
 羽咋は本の残りの部分を探し始めている。貴様はここで一生発掘でもしていろ。
「ネコ先輩、向こうに足跡があります!」
「ほう」
 邑楽と共に瓦礫の中を歩き始めて、少しいったところで背後から越生が僕らを呼んだ。
「あのさー、探さなくてもいいと思うよ〜」
「何で。何か解ったのか?」
「ほら〜いるからさ〜」
 そう言って越生は僕らの前方を指す。ぞっとして僕と邑楽は凍りついた。
「……邑楽、お前いつもの大斧は?」
「ははは……越生先輩の足元に置いてあるっス」
「……逃げよう」
「うわっ俺敏捷度めっちゃ低いんスけど! がちがちのプレートアーマーだし」
「だからチェインメールにするべきだったんだ!」
 走り出した僕らの後ろで瓦礫が蹴散らされ、生暖かい突風と唸り声が首筋を撫でた。僕は前列担当じゃない、後方支援だ。
「何だ、くるみか〜」
 越生が何か呟いた。怒鳴ろうとした途端に耳に飛び込んだのは、巨大だが間違いなく猫の声だった。
 

「……で、くるみって何」
 菅生の相手を嫌がったその化猫は羽咋の歌(相手を鎮める魔法の効果がある)を聞いた途端に喜んでじゃれついた。どうやら羽咋が身につけていたジャラジャラした銀鎖やヒラヒラの衣裳が気に入ったらしいが、巨大猫にお手玉状態にされた羽咋の方はたまったものではない。それでも猫がおとなしくなるまで歌い続けたのは偉いが。
 猫がニャーと鳴いた。今まで見たどんな建物よりもでかい。
「天満の飼い猫」
「だと思った! あいつめ」
「それでね〜、首の鈴んとこに何か縛りつけてあるんだけど、どうやって取ろうかなって思って。シーフはいるけど菅生この子に嫌われてるから」
 成程、くるみから離れて目を凝らすと何か布包みのようなものがついている。
「羽咋にやらせれば」
「まだ目を回してるけど」
「……解ったよ」
 パーティーの要である魔法担当者を危険にさらすわけにもいかない。くるみの肩にハシゴをかけて登っていくと、猫はくすぐったそうに身を震わせた。おい、危ないって。
「天満も飼い猫を何だと思っているんだ?」
 喉掻いて、とくるみが催促する。思いきりガリガリやってやりながら鈴に結わえられていた布包みを解いて懐に押し込み、おっかなびっくり降りた。可愛いけど石の建物をコナゴナにして遊んだ奴だからな……ところでこいつにつくノミってやはりでかいんだろうか。
「お帰りー」
「で、何て書いてあるんスか?」
「ほれ。おい菅生、ほどほどにしておけよ、圧死……」
 クククと笑いながら菅生がパチンと指を鳴らすと火の玉が現れ、くるみのヒゲをかすめた。途端に耳をつんざくような猫の悲鳴と舞い上がる夥しい紙片と爆風。爆風?
「えーと『はずれ。精進せいや! by北の魔王』。うわぁい」
 邑楽の何だか楽しそうな悲鳴が聞こえた。お前……調べもせずに布包みを解いたのか。ああこいつに渡したのは僕だよ、悪かったよ。

teleport!!!

 気がつくと冷たい床の上にのびていた。手で探ってみるとどうやら大理石、遙かに高い天井には数世紀前のものらしい彫刻。残念ながら夢オチではなさそうだ。怪我もないし、お約束の『岩の中にテレポート』でないだけましだが。
 頭をさすりながら起きあがると、覗き込んでいた奴が眉を上げた。
「む?」
「……む、じゃないよ。お前その格好ハマりすぎ」
 黒地に骸骨のモチーフの不気味なコスチューム無論マントつきをまとった天満だった。飯山満王女がいたらさぞ喜んだだろう。是非代わってくれ。
 よりによって何故天満の前に出るんだ僕は。じゃあここは魔王の宮殿か?
「遅い! 待ちくたびれるところだったぞ。ふっふっふ、さあ決戦だ!」
「悪いけど出直すから」
「何だと、ええい暇だ!」
「お前数百年生きてんならもう少し気長になれよ」
 その前にオトナになってくれ。
「しかもにゃあお前、また学者技能しか上げていないではないか! それでは俺の攻撃を避けるのが精一杯だぞ」
「避けるのだって無理だろう」
「ええい威張るな。くそ、何故ファンケル皇帝液を飲まなかった」
 ……飲み物なのか、あれ?
「室内での使用厳禁とか何とか書いてあったけど?」
「ジョークに決まっているだろう。即効性狂戦士養成ギブスお試しセットドリンクまずは1000円からだ」
「そんなのは菅生だけでたくさんだ」
「チッ、邑楽なら速攻で飲むと思ったんだが」
 うーむと天満はヤンキー座りのまま考え込んだ。
「仕方ない。よしにゃあ、とりあえず出直してこい。まずは各地に散らばった仲間を集めるのだ。ちなみにこの場合神龍は現れんぞ」
「何でそんなこと魔王に命じられないといけないんだ」
「暇だからだ!」
 天満は腰に手をあてて偉そうにのたもうた。退治されたいのか?
「……とりあえず帰る」
「待て。ただで帰すと思ったのか?」
「どっちなんだよ」
「茶くらいつき合え。ただでとは言わん、アイテムの幾つかのヒントくらい教えてやる」
 ……そこまで退屈しているのか。


 そうして僕は魔王のティータイムという珍しいものを体験した後ゲボクコーモリ・オオミカに乗せられて戻っていった。下ろされた場所は懐かしくも恋しい平和な、
「あらニャーちゃんお帰りなさい。休憩? 今ちょうどクッキー焼けたの♥」
「ほっほっほっ、他の奴らの姿が見えんのう」

 ……ゲームオーバーさせてくれ。
 

 

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